重症筋無力症は、まれな病気ですが早期診断、早期治療が大切です
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朝、起きた時は調子よいが、徐々に物が見えにくくなったり、手足の力が入りにくくなることはありませんか?勉強や仕事で疲れているからと思ってしまうこともあるかと思います。そのような状態の中には重症筋無力症という病気が隠れている可能性もあります。
重症筋無力症は、眼球や手足の筋肉を繰り返し動かしていると筋肉がすぐに疲れて、易疲労性 が生じ、手足の筋力低下による歩行困難やまぶたが垂れてくる眼瞼下垂、 物が二重に見える複視 などの眼の症状をおこしやすいことが特徴です。これらの症状は休息により症状が改善することも特徴です。また、全身の筋力低下をきたしますので食べ物が飲み込みづらい、しゃべりにくいなどの症状や重症になると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸抑制が生じ放置しておくと死に至ることもあります。眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状がある場合は全身型と分類されています。
重症筋無力症の原因 筋肉は、神経筋接合部(運動神経の末端と筋肉が結合するすきまの部分)において神経から筋肉へ神経伝達物質が伝達されることで、脳からの指令が筋肉へ伝わり運動ができます。
この病気は、自己免疫疾患の一つで神経筋接合部において、神経伝達物質を受け取る筋肉側の受容体が 自己抗体 により破壊され、脳からの指令が伝達されないことが原因です。
自己抗体として最も頻度の高いのがアセチルコリン受容体抗体で全体の80~85%程度、次に筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体で全体の数%と考えられています。残りの数%(全体の10%未満)の患者では、どちらも陽性になりません。
重症筋無力症の検査
① 血液検査
血液検査を行い、重症筋無力症に特異的な抗体を測定します。
② テンシロン試験(エドロフォニウム試験)
コリンエステラーゼ阻害剤であるエドロフォニウム(商品名:テンシロンまたはアンチレクス)を静注し、症状の改善の有無をみます。重症筋無力症であれば筋力が一時的にですが回復します。
③ アイスパック試験
冷凍したアイスパックをガーゼなどに包み3〜5分上眼瞼に押し当てることにより眼瞼下垂が改善すれば陽性である。
④ 筋電図
運動神経を電気で刺激すると筋肉が反応して収縮します。反復運動によって筋肉が興奮しにくくなることを確認するために、神経を反復刺激しながら筋電図をとり、減衰現象(waning)を確認します。この所見を低頻度反復刺激誘発筋電図と呼びます。
⑤ 胸部CT、MRI画像
重症筋無力症患者の約15~20%で胸腺腫を合併します。
重症筋無力症の治療
① コリンエステラーゼ阻害薬
アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの働きを阻害することにより、神経筋接合部でのアセチルコリンの濃度が高まり、筋無力症状が改善します。効果は一時的で、対症療法として用いられることが多いです。
② ステロイド
自己抗体の産生に関わる自己免疫反応を抑制することで、神経から筋肉への伝達障害が改善されます。通常、経口プレドニゾロン5~10㎎/日の内服から開始し、徐々にステロイド量を筋無力症状の改善を確認するまで少しずつ増量していきます。症状が改善すれば症状の再燃に注意しながら徐々にステロイド量を減量し、経口プレドニゾロン5㎎/日以下の低用量内服で安定した状態にしていきます。高用量ステロイド長期内服の副作用を予防するため他の免疫療法を併用してステロイド量をできるだけ少なくすることが必要になります。導入時のステロイド内服の量が多いと一過性に筋無力症状が悪化することがあり、初期増悪といわれます。メチルプレドニゾロンの静脈大量投与(通常、500~1000㎎/日、3日間。ステロイドパルス療法)は有効ですが、初期増悪や嚥下障害、構音障害などの球麻痺症状に注意することが大切です。
③ 免疫抑制剤
自己抗体の産生に関わる自己免疫反応を抑制します。ステロイドと併用します。
病気の初期から積極的に使用することで、筋力を改善する効果とステロイドの減量効果が期待できます。シクロスポリン、タクロリムスがよく使用されています。
④ 免疫グロブリン療法
自己抗体の作用や抗体の産生を抑制すると考えられています。急性増悪例、クリーゼを引き起こした例に使用し、軽症例や眼筋型には使用しません。通常、5日間連続の点滴をおこないます。
⑤ 血液浄化療法
人工透析で使われる装置を使用して、血中から抗アセチルコリン受容体抗体などの自己抗体を除去します。急性増悪例、クリーゼを引き起こした例に使用します。
⑥ 拡大胸腺摘除術
・胸腺腫合併例は、原則、拡大胸腺摘除術が治療の第一選択となります。重症例では筋無力症状を改善させたうえで手術が行われます。胸腺腫が周囲臓器へ浸潤している場合には、放射線療法や化学療法を併用されます。
・胸腺腫非合併例における胸腺摘除術の適用は、抗アセチルコリン受容体抗体陽性の患者について適応基準をみたせば、胸腺摘除術が行われることがあります。
⑦ 補体阻害薬
免疫システムの1つに補体系があり、補体系が活性化することにより、神経と筋肉の接合部が破壊されてしまいます。補体阻害薬は活性化している補体の一部と結合して、その作用を抑制することで症状を改善します。抗アセチルコリン受容体抗体陽性の全身型の患者さんに対して上記の治療で効果がみられない場合に、補体阻害薬であるエクリズマブを使用することが可能になりました。
当院でも適切な病歴聴取と神経学的診察所見からある程度重症筋無力症を疑うことが可能です。疑いがあれば重症筋無力の病因でもある自己抗体(アセチルコリン受容体抗体)の測定を行い、早期診断、早期治療に結びつけることができます。
重症筋無力症の詳細な検査も必要であるため検査可能な高次医療機関に紹介いたします。紹介後、重症筋無力症と診断され、治療開始後、ある程度症状が安定していれば、当院でも治療継続が可能です。神経症状の悪化がないか観察しながら血液検査にて自己抗体の数値も参考にステロイド薬や免疫抑制剤の調整をしていきます。
今、起きている状態が重症筋無力症の症状ではないのかと不安に思っている方、重症筋無力症の診断をうけてなにかご不明な点がある方など、当院にご遠慮なくご相談ください。
いなざわ駅前内科クリニックでは、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病をはじめ、頭痛、脳卒中、パーキンソン病、認知症、てんかんなどの脳神経疾患、不眠症、うつ病、適応障害、アルコール依存症、不安症、強迫性障害などの精神疾患・メンタルヘルスの問題に対応しております。一宮市、名古屋市、稲沢市、岐阜市、清須市、岩倉市、津島市、愛西市、あま市、北名古屋市など、幅広い地域から多くの患者様にご来院いただいております。稲沢市で内科・脳神経内科・心療内科・精神科をお探しの方は、いなざわ駅前内科クリニックへお気軽にご相談ください。